Right Kind of Wrong: The science of failing well
Amy Edmondson
Right Kind of Wrong: The science of failing well
某経済誌で2023年のベストビジネスブックに選出されています。
著者はハーバードのリーダーシップとマネジメントの教授で、心理的安全性(Psychological safety)という概念を提唱しています。組織の振る舞いと管理に関して、良いチームが良い結果を生むわけではないことに直面し、失敗を科学することの重要性を認識し、一般に共有したいと考えたそうです。
失敗から学ぶというのは、言うは易し、行うは難しです。あなたが間違えなければ、あなたは新しい領域に踏み込むことはないでしょう。私たちが生活していく上で、失敗は進歩の避けられない一部であるということを前提に、失敗を再構成していきます。そして失敗から学習し、その学習を習慣づけるためのメソッドを提案しています。
著書は2部構成で、第一部で、知的な失敗、基本の失敗、複雑な失敗に分類した3種類の失敗について、エピソードを交えて解説し、第二部で失敗を科学する実績のための三つのコンピタンスを解説しています。
知的な失敗は、あなたが従来信じている部分によって発生します。失敗から学ぶことは、新しい領域を認識する機会を得ることになります。エジソンや他の科学者を例に解説しています。
基本の失敗は、間違いが原因になります。チェックリストは不注意なエラーを減少させます。ヒューマンエラーは発生するので、それを前提にチェックする体系的な仕組みを導入します。エラーは常に私たちのそばにあります。これを学習の機会として再構成します。エラーに親しむことによって、それを私たちは、把握し、報告し、訂正することができます。結果的に失敗を避けることがきるのです。
複雑な失敗は、真の怪物で、多くの小さなことが積み重なって、不確実性が継承されて生じます。この種の失敗では、外部要因と制御不能な要因がしばしば重なります。複雑な失敗は、一般的に小さな警告サインによって進行しますが、それは見逃され、無視されてしまいます。NASAのスペースシャトルの事故や、ボーイング737MAXの例が示されます。
一旦、複雑なシステムが、込み入って理解しづらくなると、次に何が起こるのか予測がさらに困難になります。なぜなら小さな誤りのインパクトが内部で接続されて関連し簡単に拡散するためです。
この複雑な誤りを減らすためには、信頼性の高い組織が必要です。その属性として、以下の簡潔な事項を実績することです。
- 過去の複雑な失敗から学ぶ
- 初動の警告に注意を払う
- 回復を知る手段(recovery window)にレバレッジをかける
- 誤りの警告を歓迎する
Mike Robertoは「知らないことを知れ」と言うマインドセットについて解説しています。これは、聞こえてくる信号を確認すると言うことです。
第二部の三つのコンピタンスの解説では、ヘッジファンド、ブリッジ ウォーターアソシエイツのファウンダーであるRay Dalio氏の初期の躓きが例示されます。彼はこの躓きで新しい領域に入る機会を得て、その後の飛躍につなげます。
彼は、私が正しいと どのようにしてわかるか?と問います。"私はただ正しさを求めている。その正しい答えが私から発したものであるかは気にしていない"。彼のマインドセットは学ぶことに開かれました。
脳の情報処理の基本的な経路は、遅い処理は合理的で正確ですが、早い処理は反射的で直感的です。Victor Frankl's は、困難や悩みの原因になる自動的な考えで進めるのを中断します。次に、これらの考えを再構築すること(reframe)は、わかっていることをさらに超えて学ぶことを選択することができます。再構築(reframing)は、仮定の群として枠組みを考えます。
失敗の科学を身につけるためには、私たち自身を見つめることから始めます。自己認識(self-awareness)が最初のコンピタンスです。三つのコンピタンスの他に二つは、状況認識(situation-awareness), システム認識(system arwareness)です。
著者が提唱する概念、Fearに対する心理的安全性(Psychological safety)と、self-awarenessを含む三つのコンピタンスは、古代中国の孫子の兵法を連想させます。孫子の兵法では、"彼を知り己を知れば百戦殆うからず"という名句があります。これを本書のキーワードを使って示すとself-awareness,situation-awareness,system-awarenessによって、Psychological safetyを得ると言い換えられるでしょう。(著者のPsychological safetyは、主に組織におけるno-blame cultureを指しており、少しニュアンスが異なります)
著書の事例や背景知識はカーネマンの行動ファイナンス、認知心理学などからのアプローチですが、孫子に通じるのは興味深いことです。随分前にProspect theoryで注目され、行動ファイナンスのパイオニアだったダニエル・カーネマンとトバルスキーの”Judgement under uncetainty:Heuristics and biases"や"Choices Values and Frames"は示唆に富んでいました。彼らのリサーチは、ヒューリスティクスとバイアスについて、多くの事例を通して体系立てて把握することができます。著者はカーネマンの"Think fast and slow"から条件反射的な判断と熟考する二つの種類の脳の働きの仕組みを引用しています。
著者のテーマは失敗を科学することですから、そのために体系的な実績の手法を提案しています。Stop-Challenge-Chooseというフレームワークです。失敗に対処して学習を継続するために、著者はこのフレームワークを身につけて、失敗の認知に関して習慣づけることを勧めています。
Stopは、自動的に反応が出る早い思考、それが当然を思い込んでいる思考から立ち止まり、感情的な反応を止めることです。
Challengeは、ゴールに向けて再考しましょう。一度思い込みを捨てて熟考しようということです。
Chooseは、自分の目的とするゴールに向けて再構築した考えに沿って、行動を起こして進みましょう。
ここで、Challengeの再考することに関しては、Adam Grantは"Think Again"という似た(一度、思い込みを捨てて熟考しようという)啓蒙書を書いています。2023年にベストブックに選ばれている別のビジネス書、"How Big Things Get Done"も、プロジェクトを成功させるためにこの種の思考に注意を払うことを挙げています。リスクは自分自身の中にもあるという考え方です。
三つのコンピタンスの一つ、system-awarenessでは、トヨタの生産システムを例に、常に問題を表面化させ、チームで共有して解決する手法を例に取り上げています。ミーティングは成功体験のアピールでなく、直面している問題と懸案事項の報告が必要とされます。”改善”と言う言葉は使われませんが、改善が日々の業務として進められていることが紹介されています。非難のない報告は、体系的な学習システムの一部です。
失敗は、仮定や時間、手法の問題でなく、私たちの存在の一部です。心理的安全性の概念に通じますが、失敗が発生する時、開かれたマインドで、明晰な心理で、それらから学び、前に進んでいくことを続けることです。
あなたが属するコミュニティーの中で、健全な失敗の文化を構築するための実績が役に立つでしょう。著者は簡単にチェックする方法を挙げています。周囲から以下の項目の左右両サイドのどちらの報せが多いか検討してみてください。
良いニュース - 悪いニュース
進行 - 問題
承認 - 異議
全て順調 - 支援が必要
あなたの属する組織で左の項目の割合が多ければ、注意してください。良い感じは、心理的安全性を持つ健全な失敗の文化からみるとおそらく良くない状態です。
属するコミュニティーの心理的安全性がこれで簡単測れます。ビジネスマネージャーに限らず、個人あるいは組織的に三つのコンピタンスを身につけ、本書のフレームワークStop-Challenge-Chooseを習慣化することで、心理的安全性のあるコミュニティーを構築することを推薦しています。