グラフィカル・モデルを基にした因果探索

2025/1/21

Rによるベイジアンネットワークを用いた因果探索。 有向グラフ因果モデル(DGCMs)、またはDAGは、因果関係を説明し、データから真の因果の関係を探索するために計算に用いる方法です。 causal-learnやcausalpyというpythonの因果探索ライブラリを評価しました、Rにも同様のライブラリが提供されています。ここでは、CRANに登録されているRのライブラリpcalgとbnlearnに実装されているいくつかの因果探索アルゴリズムを評価します。 2025年の10大リスク  ユーラシア・グループは、 ...

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JupyterノートブックでRを使う方法

2025/1/20

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ドル円為替レートと物価上昇の関係:非線形モデル

2024/12/29

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Apple Silicon Mac の R バージョン更新・インストール

2024/12/25

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書評:Essential Math for AI

2024/12/23

Essential Math for AI:Next-Level Mathematics for Efficient and Successful AI Systems Hala Nelson Essential Math for AI:Next-Level Mathematics for Efficient and Successful AI Systems  本書は、機械学習に関してトピックごとに関連する数学が挿入してあります。数学の理論や証明、プラミングコードは記述してありません。  読者として、数 ...

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書評:Supremacy

2024/12/20

Supremacy: AI, ChatGPT and the race that will change the world Parmy Olson Supremacy - AI, ChatGPT and the race that will change the world  ジェフリー・ヒントン氏のチームがGPUにCNNを実装したAlexNetを使って画像認識でブレークスルーを起こしたのが2012年です。  5年後の2017年にGoogleのチームがAttentionモデルを使ったTransforme ...

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R統合開発環境 RStudioのインストール

2024/12/10

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書評:Why Machines Learn

2024/11/25

Why Machines Learn: The Elegant Math Behind Modern AI Anil Ananthaswamy Why Machines Learn: The Elegant Math Behind Modern AI  本書は1950年代のローゼンブラットのパーセプトロンから現代の深層機械学習までの物語を記述してあります。  今年、2024年のノーベル物理学賞を授与された、ホップフィールド氏(John Hopfield)とヒントン氏(Geoffey Hinton)の仕事も ...

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書評:The Model Thinker

2024/11/18

The Model Thinker: What You Need to Know to Make Data Work for You Scott E. Page The Model Thinker: What You Need to Know to Make Data Work for You  本書のサンプルを目を通してみると、本文がチャーリー・マンガー氏の言葉の引用から始まっています。  ー賢明になるためには、頭の中にモデルを持つことだ。このモデルの格子の中に、直接の経験と、代行による間接的な経験の両 ...

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市場創造型のイノベーション 書評:The Prosperity Paradox

2024/12/26

ノーベル物理学賞の対象としての機械学習  今年のストックホルムの物理学賞に、機械学習の分野への貢献に対してジョン・ホップフィールド氏と以前グーグルにも所属していたトロントのジェフリー・ヒントン氏が選出された。  ACM、チューリング賞なら自然なのだが、コンピュータサイエンスの分野から物理学賞として選ばれるのは珍しい。ストックホルムの賞は物理学と化学と生理学の3種類しかないので、物理学的な考えがアルゴリズムに導入されているので物理学という枠組みが適用されるのであろう。それだけ機械学習の社会へのインパクトが大 ...

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ファイナンス

流動性の罠 再考

金利と金融緩和

デフレーションに起因する流動性の罠

 図1 マネタリーベース、金利、GDP (1994年ー2014年)

 図1は1994年から2014年の4半期ごとの金利、マネタリーベース、実質GDPの関係を示しています。金利は国債の流通利回りの四半期毎の値です。金利は1.0以下でGDP成長率にほぼ寄与していません。GDPは財政支出による景気対策に依存しています。例えば、2013年に政府は景気対策に20兆円の予算を支出していますが、これは4半期単位で5兆円、GDP(X軸上)を右にシフトさせています。これは下の図5で示されるデフレーションの罠にある状況です。

 下の図2は1994年から2023年までの30年間の金利、マネタリーベース、実質GDPのデータを表示しています。図の円の面積がマネタリーベースの残高を示しています。過去10年間の大規模金融緩和でマネタリーベースが膨張していることがわかります。実質GDPと金利は大きな変化は見られません。GDPはマネーサプライより財政支出の規模に相関しています。

マイナス金利

2016年以後、1年債の流通利回りとコールレートがわずかにマイナス金利の領域に入ります。(-0.1 ~ -0.2%)

 

図2 マネタリーベース、金利、GDP (1994年ー2023年)

投資・貯蓄モデル

 図3は投資と貯蓄が金利に関係することを示しています。投資は金利に依存する関数I =I(r)として、貯蓄は所得に依存する関数S = S(y)として記述されます。消費を除いた所得の残余が貯蓄になります。

          Ys = C + S

 一般均衡モデルでは、貯蓄と投資が一致する交点が、均衡金利のポイントになります。以下の式は財市場における消費と投資になります。これらは総需要に等しくなります。

          Yd = C + I

 総供給Ysは総需要Ydと均衡産出量で一致します。Yd = C + I とYs = C + S は、I=S を実現する利子率と生産量を決定します。

 図3貯蓄ー投資モデル

 図4では、実質金利の軸上で負の領域に、投資曲線と貯蓄曲線が交差する点があります。これは実質金利の均衡レベル、実質均衡金利が負の値であることを示しています。実質金利は、需要に影響しますが、私たちが観測できるのは、市場での名目金利です。図1のY軸で目盛りのある流通利回りです。

 フィッシャーはこの名目金利と実質金利の関係を以下の式で説明しました。

          i = r + π
フィッシャー方程式: 名目金利(i) = 実質金利(r) + 期待物価上昇率(π)

フィッシャー方程式

物価上昇率の平均は通貨の増加率と正の相関があります。名目金利と通貨の増加率もまた相関します。MonnetとWeberは、金利と通貨の増加率を31カ国で1961年から1998年まで調査しました。彼らは通貨の増加率と長期金利に正の相関があることを発見します。この証拠はフィッシャー方程式と調和しています。

 たとえ名目金利が0であっても、負の実質金利を実現するためには期待物価上昇率は高い正の値である必要があります。インフレ期待が高くなければ、投資と貯蓄が釣り合う均衡金利は実現されません。

 図4は、投資と貯蓄の均衡のために、より高い期待物価上昇率が必要なことを示しています。

 しかし、私たちは、期待物価上昇率を観測できないので、以下の図でこの式の概念の意味を把握する必要があります。

 図4 投資-貯蓄モデル 負の均衡金利

ケインズ経済分析のヒックスによる一般均衡モデル IS-LM

 ヒックスはケインズ経済の概念を一般均衡モデル IS-LMモデルとして示しました。財とサービスの市場(IS)と金融市場(LM)は両方ともに、所得Yと金利 rの関数として説明できます。財とサービスの市場で S = I の均衡条件(貯蓄と投資が等しい)を使って、Y = S -1 I(r)

             Y = IS(r)

 Y=IS(r) 方程式は投資と貯蓄に一致し、均衡する水準の金利と生産の組み合わせを示します。これと同様に、Y=LM(r)は金融市場では取引需要と投資需要があります。全体の貨幣需要は、金利に依存する関数として、金融市場で両方の需要の合計と一致する必要があります。金融市場で均衡状態を実現する曲線は、貨幣需要の関数によって示すLM-曲線です。

 一般的にLMカーブは以下の方程式として示します。

             Y = LM(r)

 所得と金利からなる共通の基盤の上で、貨幣市場と財市場がモデル化されます。

 ケインズは、大恐慌を経験した経済学者なので、不況にある経済状況に関して深い洞察を見せています。金利が極端に低い状況を想定した経済を分析しています。景気後退、不況におけるケインズの分析は、極端に低い利子率では、それ以上下がらない水準に低下しても、流動性選好が支配的となり、貨幣が投資に向かいません。こうした物価が下落していく状況では、金利が0以下には下げられないため、実質金利は高止まりし、投資するより貨幣として保有する方を選択します。

 以下の図5で示すLM-曲線が平坦になっている状況です。金利が0以下に下げられないため、LM-曲線は平坦化します。ケインズは、貨幣が投資に向かわないこの状態を"流動性の罠"と呼んでいます。

 

 図5 IS-LM 均衡モデル

 金融緩和の場合、金融市場に影響します。LM-曲線は生産量であるY軸で右方向にシフトします。金融の引き締め政策の場合はLM-曲線は左方向にシフトします。

    • 金融緩和:マネーサプライの増加はLM-曲線を右方向にシフト

    • 金融引締:マネーサプライの減少はLM-曲線を左方向にシフト

 図5のLM-曲線は、黄色の点線、黒色の線、赤線で示す三つの部分に分割して分析することができます。

 IS'で示す領域でLM曲線がIS-曲線と交差する場合、明白にLM曲線のシフトは均衡金利の水準に影響します。交差する点で実質金利と産出量は変化します。金融緩和はLM-曲線を右方向にシフトするので、実質金利は低下し、産出量は上昇します。これに対して、金融引き締めはLM曲線を左方向にシフトさせ、実質金利は上昇します。

 1970年代、USAの経済が高いインフレーション下にあった時、FRBはマネーサプライを減少させることによってインフレーションを制御することに成功しました。マネーサプライの引き締めの結果、インフレーションは鎮静化しました。IS-LMモデルを用いて分析すると、図5で示されるようにLM-曲線は左方向にシフトし、実質金利は上昇しました。このケースでは、産出量が減少するため、景気は悪化します。この時のUSA経済は、LM-曲線とIS-曲線の交点である実質金利が正の領域にある、IS'として示されるモデルを適用して自然に説明することができます。

 2021-2022年のCOVID-19後の労働市場のセクター間と地域間での労働力の需給バランスの変化に伴う賃金上昇と、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー・食料の需給バランスの変化は急速なインフレーションをもたらしました。FRB,ECB,BOEは金利を調整してインフレーションを抑制している最中です。これもIS'として示されるモデルを適用して自然に説明することができます。

 一方、IS-曲線がLM-曲線の平坦な線で交差するケースでは、金融政策がLM-曲線をシフトした場合、何が起きるでしょう?

 図5の金融緩和ボタン金融引締ボタンの上にマウスを移動させてみてください。

 金利と産出量のどちらも変化しません。IS-曲線とLM-曲線の交点は、LM-曲線がどちらの方向にシフトしてもその位置を変えません。このケインズが、"流動性の罠"と呼ぶ状況は、金融政策が機能しない状態として示されます。ある国の経済がそのような状態にあると金融政策は機能しません。

 これはLM-曲線が平坦な状態として示されます。IS-曲線がLM-曲線が平坦な線と交差する場合、たとえどれほど大規模な金融緩和を実施しても、LM-曲線の右方向へのシフトに関わらず、IS-曲線との交点は一定です。注2(図5 金融緩和ボタン)

注2

マネーサプライの増加とインフレーションの相関は、ほぼ0(無相関)です。

Webberらが調査した1961~1998年は、多くの国でインフレ基調にあり、この間はマネーサプライの変化と相関があったようですが、フィッシャー方程式が、これらを支配して線形な従属性で縛るわけではありません。フィッシャー方程式の各変数は概念的な定義であり、観測できるのは名目金利だけです。マネーサプライとインフレーションに関して、常に相関するわけではないことに注意してください。

 たとえ中央銀行がどれほど大規模な金融緩和を実施しても、実質金利と産出量は変化しません。

 これはここ10年の日本銀行(以下、BOJ)による大規模金融緩和が、インフレーションに影響していないことからも、日本経済が"流動性の罠"の状態(LM-曲線が平坦な位置)にあったケースで説明することができます。

 政府の財政政策は、この状態の経済には効果的です。これは有効需要の政策として、総需要を管理するケインズ経済学の基本概念です。公共投資はIS-曲線を右方向にシフトし、産出量(GDP)は増加します。政府が建設国債を発行して民間部門から借金し、公共投資によって有効需要を作ると、景気は良くなりGDPは増加します。しかし政府債務も増加します。[財政政策]

 ヒックスの標準の一般均衡モデルでは、IS-曲線がLM-曲線の平坦な線と交差する流動性の罠にある状態では、結局、金融政策は全く機能しないことを示しています。

 経済が継続してデフレーションであれば、そうした平坦なLM-曲線が発生します。継続したポジティブなフィードバックによって、資産価格が上昇した後、資産価格の上昇の修正後に、深刻な債務デフレーションが発生します。この状況では投資の期待リターンは著しく低下します。例え金利が十分に低い水準であっても、投資に向ける貨幣需要はなくなります。現金を保有する流動性選好と貯蓄が支配的な考えになります。名目金利は0以下にならないため、負の期待物価上昇率の結果、実質金利は、正の高い値から低下しません。図5は期待物価上昇率が0を示しています。物価上昇率が負の場合、LM-曲線は実質金利が0より高い値で平坦になります。

 1989年にベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終結して東側諸国が市場経済に参入すると、国際貿易は拡大し、グローバルに生産コストは低下しました。1990年に日本のバブル経済は崩壊します。供給超過の生産設備と能力は需要不足の状態を継続します。国内のバブル崩壊の結果による、債務デフレーション経済と冷戦後の経済のグローバル化は同時に並行して進行しました。海外市場に依存した輸出主導経済は、海外の消費市場を振興国と競合しました。そのグローバル市場での競合はGDPに影響します。新興国の低い生産コストは日本のデフレーション経済に影響しました。

 このように、IS-曲線が平坦なLM-曲線と交差し、それは日本の均衡状態になります。こうして0金利が長期間、継続します。

 仮に日本経済のGDPの水準と金利が、IS-曲線がLM-曲線と交差する図5で示す均衡状態で安定しているならば、金融緩和は全く機能しません。BOJの量的緩和はマネーサプライの増加を試みます。図5で示すIS-LMモデルが従来の日本経済と一致しているならば、大規模金融緩和は産出量(GDP)と金利の両方に影響しません。これはヒックスの一般均衡モデルを適用した結果で説明できます。モデルは現実世界の近似ですが、現在の経済状況を表現しており、現実世界の経済と相違していません。

 この経済状況下では、金融緩和はGDPのプラス成長とデフレーションを脱する効果はありません。

 金利は外国為替レートと関係します。外国為替レートが国内と海外の金利の相違を訂正する方向に外国為替レートがシフトすることを仮定したモデルがあります(図8参照)。それは、経常収支と外国為替レートの関係を示します。マネーサプライの増加が間接的に金利に影響する場合はあります。しかし、マネーサプライの増加は図5で示す平坦なLM-曲線上で金利に影響することはありません。

 図6 2022年 ロシアによるウクライナ侵攻後の主要通貨対ドルレート

 図7 2022年 ロシアによるウクライナ侵攻後の円の対ドルレート 

 

 図8 2023年 USDJPY為替レート FRB金融引締、BOJ現状維持(上)2023年 日経平均株価(下)

マネーサプライの増加と物価上昇の関係

 期待物価上昇率と実質金利の関係はフィッシャー方程式が示しています。債券を購入してマネーサプライを増加させると期待物価上昇率が増加し、結果、実質金利が低下するという主張です。図4で示す投資と貯蓄が均衡する負の実質金利を実現するために、より高い期待物価上昇率に影響することを試みます。

    • マネーサプライの増加 → 期待物価上昇率の上昇

 しかし、期待物価上昇率は数値として観測できません。マネーサプライの増加は期待物価上昇率に影響するのは、仮に両者に線形的な従属性がある場合に限ります。マネタリストの主張のように上のパスは存在するのでしょうか?

 マネタリストがマネーサプライと財の価格の従属性を主張するのに対して、ポスト-ケインジアンは、財の価格はマークアップ価格下にあると主張します。もし民間企業が生産物の価格競争力を改善することを優位性のあるストラテジーとして選択した場合、財の価格は下落します。これはマークアップ価格の普通の結果です。

 イノベーションによる生産性の改善、外国為替レートに影響される輸入中間材の低価格化は財の価格を低下させます。価格競争力を改善するための生産拠点の海外への移転もまた、価格を低下させます。シュンペーターのイノベーションという考えの視点では、必要は発明の母というように、問題があるとそれに対するソリューションが生み出されてきます。科学技術と人の知性の蓄積が新しい扉を開いてきます。

 一部の必須の天然資源について、その占有度が高い国家が優位性を持っていました。植民地主義と前世紀の二つの大戦までは、こうした地政学的なゼロサムゲームが展開されていました。

 自由貿易というのは、ソリューションを融通し合うことができる便利な手法です。人間の知性がイノベーションを生み出し、限定された天然資源による制限を、それまでなかった全く新しいソリューションでその制限の枠から解き放ってきた面があります。物流、エネルギー、住環境、食糧、生活する分野で多くのイノベーションが生み出され、限定された天然資源による供給制限を解除してきたました。自由貿易は、供給制限を無くしコストを下げることができます。

 デフレーション、図5で示す平坦なLM-曲線は、バブル経済の修正による深刻な資産デフレの後、日本の産業構造と経済のグローバリゼーションの相互に影響した結果として発生しています。

 図9は1994年ー2023年までの4半期毎のGDPの推移(下)と輸出の対GDP比(上)を示しています。GDPの周期的な増減は季節要因によるもので、GDPそれ自体の成長率は低いものの安定して推移しています。下落部分はリーマンショックとCOVID-19パンデミックの影響です。2023年の輸出額は1994年の約3倍、対GDP比では2倍以上に増加しており、輸入を含めた国際取引量は拡大しています。関税障壁や規制が緩和され、経済がグローバル化して多国間でFTAが締結された結果、自由貿易が進展しています。

 

図9 1994年〜2023年の4半期毎の輸出の対GDP比(上)4半期毎のGDP(下)

 国内のマネーサプライの増減と財の価格と労働コストを含む国内/海外の生産コストの相違は関係していません。むしろ新興国の経済成長に依存します。国内から海外の生産拠点への移転は外国為替レートに大きく依存する面があります。日本経済がデフレ下で均衡状態(安定した総需要の不足)にあれば、それはグローバリゼーションと日本の輸出指向の産業構造注3の相互の影響の結果です。

注3

2000年以後の日経平均株価は、図9上の輸出額の対GDP比の推移とほぼ連動して推移しています。90年代はバブル経済崩壊後のバランスシート不況の影響がありました。

 このとき名目金利はそれ以上の水準に下落できないほど低下します。金利がそうした低い水準にあったとしても投資の期待リターンが低いために投資が増加しないならば、経済は投資が貯蓄より低い状況が継続します。これは供給超過で総需要が不足していることを意味します。そのため、財の価格は下落し、実質金利の上昇が投資の減少を導きます。貯蓄が投資を超過し、総供給が不十分な総需要を超過します。これがデフレーションの状態です。投資の期待リターンは極端に低く、投資が金利の変化に反応しない状態から脱することができません。

 この状況に対してマネーサプライの増加が期待物価上昇率に影響するという主張は根拠に乏しいのです。2年後に2%の物価上昇を目標値にした大規模金融緩和は10年経過しても期待物価上昇率に影響しませんでした。

 2022年以後の現在のインフレ基調は、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギーと食料価格の一時的な需給バランスの急変に起因したグローバルな供給不足の伝播によるものです。

 FRBはCOVID-19、ウクライナ侵攻後のインフレーションを抑制し、経済をソフトランディングさせているようです。今後、政策金利は徐々に下げられていくことが予測されます。BOJは金融政策の現状維持を続け、南米や中近東、アフリカでは食糧価格を中心とした強いインフレーションが持続しています。仮に欧州、北米が先導してグローバルにインフレーションが鎮静化されてくると、日本経済は再びデフレーションの状態を持続する可能性が否定できません。産業構造が大きく転換したと断定できないためです。国内で総需要が不足した状況は、政府が公共投資で補ってきました。政府の債務残高の膨張はその結果とみなすこともできます。

 日本経済が”流動性の罠”の状態にあれば、マネーサプライを増加させる金融緩和政策は、金利と産出量の両方に影響せず、超過供給/需要の弱い状態を改善することはありません。外因による現在のインフレ基調が継続すれば、需給ギャップが埋まり、"流動性の罠"にある状態を脱して金利のある世界に戻ることになります。その時は、金利上昇による流動性の減少が与える影響(SVBのケース)に準備をする必要があるでしょう。そうでなくグローバルなインフレーションが鎮静化すれば、再び拡大しかねない国内の需給ギャップを埋める方向へ産業構造が転換していく必要がありそうです。

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