Autocracy,Inc. The Dictators Who Want to Run the World.
Anne Applebaum
Autocracy,Inc. The Dictators Who Want to Run the World.
Autocracy,Inc.とは著者の造語です。本書のテーマをわかりやすく表現しています。
Incは通常、Incorporated として会社組織の法人名に使います。xxx Inc.と略し会社名の終わりにつけます。統合した独裁国家、あるいは一体化した専制政治といえば良いでしょうか。民主社会と対比した概念を表しています。
現代の専制は、一人の暴君によって動かされるのでなく、暗号化された金融構造と洗練されたネットワーク、複雑な保安サービス、プロパガンダや虚偽情報を供給する技術的な専門家に依っています。
これらのネットワークの構成は、所与の専制ネットワーク内で相互に結びついているだけでなく、他の専制国家のネットワークとも結びついています。
本書が示すAutocracy,Inc.は、ロシア、中国、イラン、ベネズエラ、ジンバブエ、北朝鮮、その他の専制的な政治システムで統治された国々の連携したネットワークのことを指しています。
2022年2月24日、Autocracy,Inc.と民主社会の間で、最初の争いの動きがありました。
欧州、私たちが西側諸国と呼んでいる地域の人々は単に、ウクライナでロシアと戦っているのではないことを、ゆっくりと学びました。彼らはAutocracy,Inc.と戦っていると著者は主張します。
中国の指導者は2月4日、ウクライナ侵攻の数週間前に支援のシグナルを送っています。彼はロシアの指導層のウクライナの破壊という妄想を共有しておらず、核のエスカレーションを避けたいように見えますが、直接、ロシアを批判することを避けています。
イランはドローンを供給し、北朝鮮はミサイル、弾薬、兵士を派兵しています。ロシアのアフリカの友好国、エトリア、ジンバブエ、マリ、中央アフリカ共和国、トルコ、グルジア、キルギスタン、カザフスタンはロシアを支持しています。
2023年の春、彼らはユーラシアのデジタル通貨の構築について、話し合いを始めました。おそらくブロックチェイン技術を用いたものです。合衆国が世界に経済的な影響を及ぼすUSドルから取り替えるためです。彼らは、人工知能やIoT技術を共有するために、中国との深い協力関係を計画しています。最終的なこれらの行動の目的は、漏洩した資料に記載されたロシア外相の言葉に集約されています。:ロシアは新しい世界秩序を作ることを目的にしています。そのゴールは広く共有され、彼らはAutocracy,Inc.が勝利することを信じています。
現代の専制政治で権力の座にいることは、公的な議論や、説明責任、透明性への努力を政治的な機構によって邪魔されることなく、資金を得ることができ、それを隠すことができることを必要としています。これは政治指導者によるマネーロンダリングが実施されていることを表しています。それをKleptopia(クレプトピア)1と表現しています。(Kleptocracyは権力者が国の富を奪うことで、ユートピアと合わせた造語です)
国富の収奪は、ジンバブエなどでも酷い状況であることはよく知られています。ジンバブエと中国の友好関係は明白で、中国は貴重な鉱物資源、リチウム、ニッケル、プラチナを獲得し、Huawei社の機器を輸出しています。ジンバブエのすべての通信インフラは中国に依存しています。
ジンバブエではMnagagwa氏が権力を保持していますが、ロシアの専制君主との共通点として、二人とも選挙を通して権力を保持しているというより、プロパガンダ、汚職、選択的な暴力を通して権力を保持しています。
これは物語を操作することです。
ロシア、アサド氏のシリア(現在は政権が倒れ、アサド氏はロシアに亡命)、Maduro氏のベネズエラ、彼らは絶え間なく、嘘をついています。
2014年、ロシアがコントロールしていた軍隊がマレーシア航空17便をウクライナの上空で撃ち落とした時、ロシア政府は、否定しただけでなく、最もらしい複数の物語を捏造しました。
スター・タイムズ、半官半民の中国と結びついている衛星テレビ局は、30のアフリカの国々で、1300万人の加入者がいます。その局ではニュースより中国のコンテンツが優先されて流されます。
HispanTV(イランのスペイン語放送)は、これはGoogleがYouTubeからブロックしていますが、南米では簡単に利用できるサービスになっています。こうしたメディアはプロパガンダに使用されます。その2020年3月のヘッドラインは”新型コロナはシオニストの企みの結果だ”となっていました。
2022年9月にロシア指導者はロシア国民への演説で、”悪魔的な”西側と堕落、絶滅からロシアを守っていると宣言しました。モスクワに集まった人々に向かい、””私たちははっきりと言おう、私たちが知る、すべての人がわかっている 一つの老化した支配的な独裁に対して、我々は、ロシアのためだけでなく、世界の自由のために戦っているのだ”。
GRU、ロシアの軍部の諜報部門の構成員は、放射性物質の毒物を使用します。イギリス、ロンドンでGRUの看護師はクレムリンの敵に対して、その毒物を投与しました。
ロシアの批判者や、ビジネスの経営者は、インドでは階段から落下、あるいは窓の外へ落下したり、不審な死を遂げます。イラン共和国でも、欧州への亡命者は、デンマークやフランス、ドイツ、オランダ、スエーデン、UKで、生命の危機に遭遇します。同様に、中東、南米、合衆国でも、アゼルバイジャンやロシア、ジョージア出身者によって生命をなくす被害を受けます。
専制政治は、時にこれらの試みに関して、他の専制政治を支援しています。
本書にその記述はありませんが、かつてPLOのアラファト氏は、イスラエルのラビン氏と和平路線(ノルウェーの仲立ちによるオスロ合意)をとった後、放射性物質の毒物が原因で死去したことがありました。
中国においては、日本でも新疆ウイグル自治区の同化政策の問題が報道されたことがあります。この、中国、ルワンダ、イランの考えは、簡単には止められません。これは、彼らの自然な姿であり、彼らの文化の一部を構成する素顔だと著者は主張します。
2016年に、中国指導者は、新しい外交政策のスローガン”Turning East”(東を向く) -を作り、”私たちは、イランと戦略的な互恵関係を持つことを決定した”と宣言しました。イランの原油と石油製品を割安で入手し、通信、インフラ、銀行システムにアクセスする覚書にサインしました。これらは合衆国政権によるイランへの制裁を弱める取引です。
シリア、ウクライナ東部、リビアにおいて活動していたロシアの民間軍事会社は、それ自身、その活動がロシア国家とは距離を持つ"私的"な組織になっています。イランの枢軸、レバノンのヒズボラ、ハマス、イエメンのフーシ派も同様な役割を持っています。 彼らの活動、方法は似通っています。
彼らはイランの枢軸とイデオロギーを共有しておらず、民間軍事会社ともイデオロギーを共有していません。単にAutocracy,Incの行動システム(著書ではOperating Systemと表現してあります)として存在してます。
2014年に北京は香港の選挙システムに介入しました。香港の総督を選ぶ過程で、前もって候補者の絞り込みを行うというものです。これは"アンブレラ運動"を招きます。これに抗ったすべての香港の指導者は、服役するか亡命しました。
彼らはその対抗者を汚すだけでなく、その考えを汚す必要がありました。最も洗練された毀損のキャンペーンは、一つ目的が追加されます。新しい様式に大衆が参加するように奨励することです。
インターネットは、現在、匿名でも誰もが参加できるものになっています。
ベネズエラで、ジンバブエ、ロシア、イラン、中国で同じように、専制体制が、対抗者だけでなく、その家族や友人に対して、資金面や、実際の暴力を使うができます。
本書には、Autocracy,Inc.が用いるプロパガンダの手法も多くの事例が示されています。現代のインターネットを使ったプロパガンダも巧妙に拡大しています。その影響は日本も例外ではないでしょう。
著者はエピローグで、”冷戦2.0”という言葉を使い、専制政治と民主政治を対比しています。
エネルギー供給を依存していた欧州は、2022年以後、急速なインフレーションに遭いました。Nord Stream を共同で進めていたドイツの指導者(多くの欧州の人々も含めて)は、ロシア企業は私企業として行動するのでなく、ロシア国家の代理人として行動するということの理解が誤っていました。
嘘に基づく政治は、20世紀の全体主義国家でもうまく機能していました。それがテロによらなければ機能しないということも共通しています。
そして最後に、本書から一つのエピソードを追加しておきます。
ロシアの前大統領は、ウクライナを"成長の癌細胞"とよび、現在のウクライナ政府の破壊だけでなく、”どのようなバージョンのウクライナ”も破壊を要求しました。彼は、現在のウクライナの大部分を統合し、残りのウクライナの領域をポーランドとハンガリーに分配したロシアの地図を作りました。
第二次対戦時にポーランドがソビエトとドイツに分割統治された時期がありました。そこでどのようなことが起きていたかはよく知られています。
- Tom Burgis氏による同名の著書があります。 Tom Burgis,. ”KLEPTOPIA.” こちらはジンバブエを含むグローバルなKleptcracy(国の富の収奪)に関するノンフィクションです。また、日本では、以下のコラムようなケースが公然と実施されています。 ↩︎