The Dark Pattern: The Hidden Dynamics of Corporate Scandals
Palazzo Ph.D, Guido; Hoffrage Ph.D, Ulrich
The Dark Pattern: The Hidden Dynamics of Corporate Scandals.
本書は良い人が悪事を働くことについて記されています。ある環境の下では、彼らは嘘をつき、詐欺に関与します。彼らの振る舞いを理解するために、著者らは彼らの性格の欠点に焦点を当てるだけでなく、その意思決定を行なったコンテクストを調査しています。そのコンテクストの下では、彼らは、現実の認知において、その意思決定の倫理的、法的な次元はもはや見えません。彼らは、"倫理的に盲目(Ethical blindness)"となります。
職務倫理規定の逸脱から不祥事や大惨事に向かう様は、日本では、JCOの臨界事故をケーススタディとした岡本氏による著書「無責任の構造」で解説した状況を想起させます。本書の著書らは、”コンテクスト”の概念を導入しています。これは、置かれた状況のすべての要因を指し、「無責任の構造」と同じ概念と捉えて良いでしょう。
本書の”コンテクスト"は、彼らの振る舞いを駆動する重要な役割も持っており、”コンテクスト"は理性よりも強力に、価値や道徳よりも強力に、そして最良の決意よりも強力になりうるものとして、本書の中心となる概念の一つになっています。こうした非倫理的な振る舞いとして、アーレントが洞察した”悪の凡庸さ(banality of eval)”「エルサレムのアイヒマン」やジンバルトの「ルシファー・エフェクト」も例に挙げ、これらのコンテクストの強力さを示しています。
これはFestingerの指す認知的不協和を起こすような状況です。信じていることと観察される事実の間で不協和を起こすため、内部で葛藤を生じさせます。人はこの葛藤を処理するために、道徳を取り除く場合が生じるのです。
T.スナイダー氏は、「On Tyranny(邦訳:暴政)」の中で20世紀の専制、権威主義からの教訓20ヶ条の最初に、"忖度するな"(Do not obey in advance.)を挙げていました。"Ethical Blindness"は、置かれた状況への盲目的な同調や服従がもたらすものです。岡本氏はそれを”無責任の構造”と呼び、本書の著者らは、”コンテクスト”がもたらす"Ethical Blindness"と呼んでいます。
本書は、最近の過去20年の企業の不祥事、Theranos, Uber, Wells Fargo, France Telecom, Boeing, Volkswagen, Foxconnを事例に共通する"Dark Pattern"を説明しています。過去に遡れば類例は多くありますが、Dmitry Chernov, Dider Sornetteの著書「Man-made Catastrophes and Risk Information Concealment(邦訳:大惨事と情報隠蔽)」も本書と同様のケース・スタディを通じて、大事故から金融危機までに共通する要因を分析していました。これらの不祥事や大惨事の共通項は、情報隠蔽と職務倫理規定からの逸脱、その属する組織、あるいは環境への服従であると捉えることができるでしょう。
本書では、"Dark Pattern"は、9つのブロックから構成されていると定義しています。ideplogy, leaders, language, goals, incentices, rules, faireness, groups, changes, からなり、詳細は本書の3章で解説されています。4章以後でケース・スタディとして取り上げた企業の不祥事は、それぞれこれらのブロックのいづれかの組み合わせで構成された"Dark Patttern"として解説してあります。
「無責任の構造」の岡本氏はこうしたケース・スタディのような状況に遭遇した場合、”そのような状況で、最大の武器は、自身の専門知識の深さと個人としての個の強さ以外にはない。自分の置かれている状況を正確に、知的に理解することが大事である"と主張していました。ジンバルト氏も著書の最終章で”ルシファー・エフェクト”と、逆に作用する対処法を指南しています。本書の著者らは、"The Bright Pattern"と題する章において、組織的な努力によって、この"Dark Pattern"に対処し、倫理的に強いより健全な組織を構築する方法を示しています。
本書の示す内容は、ビジネスパーソンの意思決定における価値や判断基準の形成にポジティブに寄与し、倫理的に堅牢な組織の構築とリスク管理に役立つでしょう。