BATTLEGROUND
Ten conflicts that explain the new Middle East.
Christopher Phillips
BATTLEGROUND - Ten conflicts that explain the new middle east
本書で示す中東は、14の異なる独立した国と地域からなります。著者は北アフリカのリビア、トルコも中東に拡張(モロッコ、アルジェリア、チェニジア)して論じています。イラン、イスラエル、トルコ、クルド等を除いて、多くの地域はアラビア語を共有しています。
例えば、クルドは複数の国にまたがった地域であり、日本には外交上の窓口がないため、PKK(Kurdistan Worker's Party)やPYD(Democratic Union Party)に関してもよく知られていません。PKK,PYDは地域の状況によって、外国勢力と共闘、支援、あるいは拒否されてきました。トルコにはクルドの分離独立派ですが、シリアでは対イスラム国で合衆国の支援を受けてきました。
アラブの春以後の中東地域は、複数の外国勢力が地域の紛争に介入しているため、国際関係はさらに重層的に複雑になっています。
スンニ、シーア派の対立、地域のライバル関係、ユダヤ教とイスラム教の違い、石油-膨大な化石燃料の利権、西側の帝国主義、これらは中東の地政学を説明するのに使用されますが、しかし現実はもっと複雑です。
著者は本書で、鍵となる様相:紛争に焦点を当てることで中東の地政学を紹介しています。
21世紀になり、中東の暴力的な紛争は急速に大きくなっています。これは、ナシーム・タレブ氏が最近の著書(1)やエッセイの中で示したように、スティーブン・ピンカー氏の主張(2)(3)とは異なる様相を示しています。世界で発生している紛争や、今日の中東や東欧について多面的に把握する必要があるでしょう。
国際政治を理解する経路はたくさんありますが、中東の紛争の存在は、地域の地政学を理解し必要な知識を得るための端緒になるでしょう。
本書は、シリア、リビア、イエメン、パレスティナ、イラク、エジプト、レバノン、クルド、湾岸、アフリカの三日月地帯の順番で記してあります。これらは密接に絡み合っています。たとえば、トルコのリビアでの行動は、シリアでの経験を抜きには理解できません。イラクでの役割の遺産を理解することなしに、合衆国の二つの紛争への関わりを説明することはできません。サウジ、UAEのカタールへの敵意のある態度は、エジプト、イエメン、シリア、リビアへの関与を考慮せずに理解することはできません。
今日の中東の国際関係を各章で、10の鍵となる地域と国際的な外国の関与を含む10個の物語にしています。関係国には合衆国、ロシア、中国、EU、トルコ、イラン、サウジ、イスラエル、カタール、UAEが含まれます。
著者は、前著(4)でシリアでの紛争において、どのように戦争が国外の力に吸引されるか、国内の争いばかりでなく、むしろ当初から国の内外の相互作用に基づいていることを記しています。合衆国の重要な役割として、反乱勢力が超大国が自らの側に立ち介入することを期待し、ワシントンがそれを拒否した時に、どのようにストラテジーが頓挫するかを説明しています。そしてサウジ、イラン、ロシア、カタール、トルコ、合衆国の介入によって、戦争がどのように悪化、拡大していくかを示しています。シリアが特別ではないのは明白で、同様のパターンの戦争がイエメンやリビア、エジプトやレバノンでも発生しています。
2011年以後の紛争は、平均で6カ国を超える国外の勢力が介入しており、21世紀の中東の大部分は、外部勢力の競合となっていることが示されます。
現在、進行中のイスラエルーハマスの紛争も、イエメンのフーシ派、レバノンのヒズボラ、イラン、イラク内のシーア派などが関与し、単純には理解できません。紅海の流通経路は物流に支障をきたし、米英両軍が展開して軍事的に介入して保護する状況になっています。紅海を使えなくなった欧州からのカーゴは陸路でロシアを経由しているものがあります。パレスティナのケースは4章に記されています。
東欧での振る舞いが注目されたロシアの軍事会社は、2014年以後リビアの市民戦争でも活動してロシアの存在を広げていました。ロシア同様、トルコもカダフィ体制と結びつきがありましたが、体制崩壊後は、ムスリム同胞団に関連したイスラム系の政党を支援しています。リビアのケースは2章で記されます。
本書は、10の章を設けて各章毎の紛争を入り口に、この複雑な国際関係を解きほぐして示してくれています。アラブの春以後の中東地域を俯瞰して理解するための必要な知識が得られるでしょう。
参考
- "Statistical Consequence of Fat Tails". Nassim Nicholas Taleb
- "The Better angels of our nature". Steven Pinker
- "Enlightenment Now". Steven Pinker (邦訳:21世紀の啓蒙)
- ”The Battle for Syria”. Christopher Phillips