Our dollar, Your Problem: An Insider's view of seven turbulent decades of global finance, and the road ahead
Kenneth Rogoff
Our dollar, Your Problem: An Insider's view of seven turbulent decades of global finance, and the road ahead
最近、経済制裁をテーマにした著書にいくつか目を通しました。USドルは世界経済秩序を形作るのに組み込まれており、多国間の決済システムで標準の通貨という位置にあります。
近年の地政学的な問題に対して、兵器を使った制裁でなく、USドルの信用とグローバル経済のシステムを用いた経済制裁が武器として用いられています。それはUSドルの影響力を使ったものです。
本書は、USドルのヘゲモニーについて27章を設けて、各章ごとに個別の国やトピックを取り上げて、金融・経済におけるUSドルの影響と関係性を解説しています。
ロシアやイランに関しては軍事力の行使でなく、世界経済システムの中のUSドルの力を行使することで、経済制裁を実施しています。
本書のタイトル”Our dollar, Your problem” は、ニクソン政権時代に財務長官”John Connally”氏が発した言葉からとってあります。リチャード・ニクソン氏が金・ドル交換停止を決定し、ブレトンウッズ体制が終了した時です。国際通貨システムは変動相場制に移行します。
このニクソン・ショック後のインフレーションにより欧州のドル準備が問題になりました。
最終章にあるように、Pax dollar の時代の終焉は、世界経済にインパクトを及ぼす出来事が発生するたびに警鐘されることです。以下の著書でも論じていますが、USドルとって変わるシステムや通貨は出てきそうにありません。
現代の経済システムと貿易の仕組みは、USドルを元に形成されています。
兵器を用いない経済制裁が有効なのは、この経済システムの仕組みのためです。本書では、一つのトピックとしてUSドルと国際関係、経済、今後の国際決済システムやデジタル通貨について評しています。
ニクソン・ショック以後、USドルと米経済の対抗軸としてのソビエト連邦、日本、欧州共通通貨、そして中国、と各国の通貨と経済の関係を論じ、デジタル通貨や将来の通貨制度の関して展望しています。
ソビエト連邦は軍事的には、米国の挑戦者でしたが、経済的にそうなることはありませんでした。1970年代後半から1990年代初頭、日本は金融と貿易に関して、競争相手となり洗練された金融システムと良い機構を保持し、国際競争力が高くなっていました。
日本はプラザ合意以後、円の切り上げから債権国として大きな存在となり、バブルが発生して弾けたのはよく知られています。東京の地価は、東京の皇居の区画がカリフォルニア全体の地価より価値があるという、比較が滑稽な程、地価が高騰していました。
バブル後の処理で長期間経過したのも周知のとおりです。
覇権を競う中国については、貿易のパートナーでありながら、政治的には経済制裁の対象になっているイラン、ロシア、北朝鮮などとの外交関係が経済協力、貿易のパートナーともなっており、外交的には多極化の様相を示しています。
BRICSを中心とした国際決済システムの構想はありますが、国際決済通貨としてはUSドルがその信用度から揺らぐことはなさそうです。
中国の建設セクターは急速に利益を縮小させていきます。中国の建設ブームについては、"乗客のいない高速鉄道"や"住人のいない家屋"で形容されます。
2021年の夏に建設、不動産会社のEvergrandeが破綻し、"this time is different"効果の例を見ることになります。
中国の成長の問題は、投資に対する利益の減少のためです。中国住宅需要が最盛期を越えたのでなく、中国の最盛期についての議論になります。中国の不動産とインフラの行き過ぎた建設ははっきりしています。
USドルは国際取引の決済通貨として実質的な標準通貨です。USドルと共に生きていくことには、自国通貨の交換比率として固定レートへの誘惑があります。中国の中央銀行はインフレーションに注目するより人民元の交換レートに注目しています。人民元とドルの交換レートに関して、中国は特定のレンジでのターゲットゾーンをとっていますが、むしろ固定レートに近いものです。
固定レートは金融政策に透明性があり、人々にはわかりやすいシステムです。一方で、それは驚くほど脆弱であることがわかっています。破綻した場合、大混乱を起こす傾向があります。銀行は破綻し、国は破綻し、政権は倒れ、経済成長は止まります。持続不可能な固定レートの体制によって弾けた、1998年のロシア金融危機を考えてみてください。この時、合衆国ではLTCMの破綻を呼びましたが、ロシアでは、著者によると、ウラジミール・プーチン氏を権力に送るロケット燃料でした。
他の特筆すべき固定レートに準じた危機は1994年のメキシコ、ペソ危機、1997-1998年のアジア通貨危機、1999年のブラジル危機、2010-2012年の債務国がユーロ圏の離脱の脅威に晒された欧州債務危機が含まれます。
対ドルでの厳密な固定レートを持つことの問題は、国の金融政策に強い制限をかけることにあります。金利の動きをFedに同期させる必要があるのです。ロバート・マンデル氏はこの問題をトリレンマ、"不可能な三位一体"と説明しています。
国家は、固定レートと開かれた金融市場、独立した政策金利を同時に実現することはできないのです。
Pax dollarの時代は終焉しそうにありません。それに取って代わりうるシステムが見当たらないのです。このテーマでは、デジタル通貨を用いたBricsを中心とした決済通貨システムの構想に注目している識者もいます。
しかし、検討されている国際決済システムを現行の仕組みと比較した場合、専横的な政治システムが背景にあれば、それは虚偽と搾取を含み、最新の技術を応用してデジタル通貨を導入しても脆弱のものになるでしょう。
合衆国では国の債務の持続性が議論にあがります。現在のところ最終的にUSドルの信用を基盤にしたシステムが継続していくことでしょう。ただし、繰り返し多くの事例でみてきたように、"This time is different"を無視するのは愚かなことだと著書は主張しています。