Shocks, Crises, and False Alarms: How to Assess True Macroeconomic Risk
Philipp Carlsson-Szlezak, Paul Swartz
Shocks, Crises, and False Alarms: How to Assess True Macroeconomic Risk
本書はマクロ経済における近年見られたような、ショック、危機などのリスクを案内します。
マクロ経済のリスクを判断するとき、リスクが実際のショックに変わるとき、その寸断は、一時的な変化か、永続する変化か、それとも間違った警鐘か、マクロ経済のリスクをどのように分析するか18章にわたって記しています。
三部構成になっており、第一部は経済成長について、第二部は金融面、第三部は地政学を含むグローバル経済に関するリスクです。
著者らによる本書の執筆は、COVID-19の経験を契機にしたものでしょう。COVID-19の発生で、恐慌のようなリセッションに陥ることが懸念されましたが、これは間違った警鐘でした。
経済成長のリスク
第一部は経済成長のリスクと成長を加速させることについて記述されています。
近年、景気循環論は、あまり論じられなくなりました。パンデミックのように実体経済が破裂したり、政策が景気後退を誘発、あるいは金融面からの景気後退という3種類の景気後退について論じています。
その際、混乱を避けるために、以下のことに注意して対処することを提案しています。
- 確率に焦点を当てない
- リスクの種別の期間を考える
- 景気後退を内部化する
- ヘッドラインに左右されない
- 予想でなくシナリオを考える
そして景気後退から回復するために、回復のストラテジーを考える際、以下のことに注意が必要です。
- 景気後退の強烈さと回復を合成させない
- 生産のトレンドと成長率に焦点を当てる
- 経済の供給側の影響を評価する
- 政策を忘れない
- 最悪を仮定しない
最後の項目は気になるかもしれません。通常は、ワーストケースシナリオをプランニングに入れるものだからです。著者らは、私たちがどのように最悪のケースを推定するかに注目しています。
ここで考えるケースは回復に関するストラテジーです。”あなたが考えているよりはずっと良い”が、”これは最悪のケースだ”より、ヘッドラインになることは稀です。
回復のストラテジーでは、最悪を仮定しないことを提案しています。これはヘッドラインに左右されないということに通じています。著者らはこれは混乱を避けるために必要なこととみなしています。
経済成長に対する姿勢としては、成長の駆動するものに焦点を当てること、成長を駆動するものの相違がわかることに注意して分析することを提案しています。
そして、稀なケースで、奇跡的な成長の成功モデルとみなされる物語が注目されることがあります。実際には成長モデルに魔法はありません。成長モデルを変更するのは難しく、低成長であっても自信を残しておくことが重要です。
また、テクノロジーは、経済の生産性の成長を押し上げます。生産性の向上は、有望であり、また危機でもあることを覚えておくことです。生産性の向上は長期的に経済にとって大きな問題です。
金融による景気刺激策、システミック・リスク
第二部では、金融による景気刺激策、インフレーション、その他の金融リスクを含むシステミックリスクを分析しています。
景気刺激策については、3通りの実際の景気刺激策が失敗した方法があります。システミック・ショックや危機が発生した時の対応の結果として、
- 政策の誤り
- 政治的失敗
- 市場の拒絶
景気刺激の失敗の実例としては、デフレーションによる景気後退(1. 大恐慌、2.TARPなしの2008年)、債務/通貨危機(アルゼンチン2001)があります。
そして、景気刺激策が失敗する時の教訓として、以下のことを覚えておくことを記しています。
- 失敗への経路に呼び名をつけること
- 政策担当者を過小評価しないこと
- 政治的な(景気)刺激がわかること
- 市場が拒絶する見込み(賭け)について現実的であること
2番目の項目は逆説的な意味を暗示したものです。現代の中央銀行は、特に経済的刺激について、何かが機能するまで試してみる哲学を抱いて育っています。彼らがしつこく誤りを繰り返すことが本当だと思うには、私たちは、システミックな失敗の必要条件となる、彼らの独立性が約束されていることを信じる必要があります。そうでないと、その概念的な誤解の墓場が、彼らの考えを支配します。
政治的な刺激策と戦術的な刺激は異なります。政治政党は極端なほど経済が燃え盛ることを望むものです。
インフレーションについては、構造的なインフレーションと周期的なインフレーションについて、金融面から論じています。
本書は図表が豊富に使用されていますが、インフレーションに関する章に掲載された図13.2に"マネーサプライと物価上昇"の関係を示したものがあります。二つの指標について1960年-2007年、2008年以後に色分けしてプロットしてあります。
この図ではマネーサプライと物価上昇の間に相関関係は認められません。フリードマンの時代にはインフレーションとマネーサプライの間には正の相関が見ることができたのでしょう。しかし、図13.2の全体を見るとランダムです。
評者は、以下のブログで日本のデフレ期間におけるマネーサプライと経済成長率の関係を示しました。
データサイエンスの視点では、本書の図13.2で示すこの二つの変数の関係には、仮に1970年代を分離した場合、この変数以外に交絡関係を示す変数が存在することが推定できます。
マネタリストが古典派の貨幣数量説を元に、二つの指標の正の相関を前提にして、2008年以後の景気後退期に複数の国で過度の金融緩和を提案していたことはわかります。
一つの学説として、インフレーションを貨幣的な現象と見なしている人々が一定数存在します。
しかし、インフレーションとマネーサプライに関して、両者に何らかの因果関係があることを仮定し、ある一定期間で相関関係があった場合でも、実際にはもっと多くの交絡因子が関係していると捉える方が現実的です。
以下のブログでも触れている、量的緩和(QE)の効果に関する論文を評価した”Fifty shades of QE”という、ECBのワーキングペーパーがあります。これには、政策に対する評価が、論文執筆者の所属機関におけるインセンティブに左右されていることが結論づけられています。
QEの効果について評価するには、政策担当者のインセンティブがどこにあったのかも勘案した方が良いでしょう。
特にCOVID-19後のインフレーションに関しては、ロシアのウクライナ侵攻に伴う、供給側の物不足に関連した代替需要の伝搬の面があります。
パンデミックからの回復よる労働市場のセクター間、地域間での需給のミスマッチが発生しましたが、地政学的な変化と食糧、エネルギーの供給網の寸断の影響があります。本書では、グローバル経済に対する地政学的なインパクトは第三部で論じています。
周期的なインフレーションに関しては、インフレーションの期間をくい止めることは可能ですが、それは慎重に進めることが必要なリスクです。インフレーション期間の中断は過程であって、イベントではないことを理解すべきです。
基礎にある需給の駆動がミスマッチし、インフレ期待と実際の政策が、構造的なリスクを明らかにします。
グローバル経済、地政学的リスク
第三部では、グローバル経済における地政学的なリスクを考えます。それは、複数の未来の予測する点でシナリオ分析します。マクロ経済のシナリオから地政学的なインパクトに関するシナリオ分析を実施します。
大きな危機が発生した場合、システミックリスクは半分でしかないことを覚えておくことです ー 残りの半分は、経済と政策が、特にどう反応するかにあります。政策担当者の反応、この反応が初期のショック、それ自身よりも最後にはもっと重要になります。
著者らは、新しい貿易の構造、貿易の仕組みが変化するリスクについて論じています。その仕組みの変化が困惑させる4つのネガティブな枠組みとしては、
- 経済的逼迫
- インフレーション・インパクト
- 循環的なリスク
- 勝者と敗者
貿易の拡大は国全体の繁栄を押し上げますが、国内の自動組立ラインが閉鎖されることがあります。逆の影響もまた然りです。
貿易の構造はコストとリスクを考える地政学的なレンズを通した視点、互いの利点を探すことによって形成されます。
指導者は貿易を制限するヘッドラインを浴びます。合衆国の現政権の新しい関税政策が公表されましたが、これも新しい貿易の形と言えるでしょう。貿易の構造に関するリスクに対する筆者らの提案を以下のリストに挙げます。
最後の金融引き締め時代のマクロ経済について論じています。以下の3つのシステミックリスクの起源に考慮しておくことには十分な理由があります。
- 債務からのリスク
- インフレーション期間の中断
- 深刻な金融危機
2番目のインフレーション期間の中断は、少し説明が必要かもしれません。インフレーション期間の崩壊は、スタグフレーションを伝搬することで引き締め時代が終了することを意味します。
また、地政学的なリスクは残存しており、著者らは4つの洞察を示しています。
過去10年の反グローバリゼーションの動きにも関わらず、グローバルな貿易は拡大しており、下落した商品価格は是正されました。
貿易の構造について評した箇所でも述べている著者らの主張と重なりますが、合衆国の政権の関税を中心とした新政策は短期的にインパクトをもたらすでしょうが、生産能力の本国回帰はグローバリゼーションからの反動の一面と捉え、回復力を過小評価しないことです。グローバルな不均衡に影響する面はあり、相互作用は自律的に緩やかな状態に導いていくだろうと考えられます。合衆国の消費者側だけでなく、国内の供給側の影響を評価することが必要です。
そして、経済的インパクトは、経済の破綻からではなく、ビジネス環境の急速なルール変更からもたらされます。
指導者は、マクロ経済的なリスクについて良い判断を実施する必要があります。
著者らの本書における主張では、マクロ経済の正確性は予期すべきことではありません。ショック、危機、そして間違った警鐘に遭遇した時に、次に何が起こるかを予測するのでなく、連続したリスクをどのように評価するかマクロ的な判断が必須になります。変化を駆動するものとその動向を特徴づけ、構造的な変化のためにそれらが何をもたらすかわかることです。
これはマクロデータに関して気づくことを含みます。