ニューヨークのヘッジファンドのダイレクターであるワインシュタイン氏が、ゲージ理論とCPIに関した興味深い論考しています。
この分野には1990年代後半から現在まで、複数の人々が論文を執筆しています。
QEDが電磁力と核力を統一して説明した頃から、経済を見る目にゲージ理論を使った人が何人かいました。
ワインシュタイン氏の論文は経済学者であるマロニー氏と共著によるものです。
ゲージ理論
彼らの論旨に入る前に、
そもそもゲージ理論って何?
この疑問から明らかにしましょう。
これは量子力学の一つの理論で、世界を構成する三つの基本的な力、重力、電磁力、核力のうち、二つの力を統一的に説明した理論になります。
アインシュタイン氏は一般相対性理論で重力の謎を解きほぐした後、晩年まで三つの力を統一して説明する理論の構築に取り組んでいました。彼の理論によると時間は座標系によって異なる相対時間となります。
ゲージ理論は、三つの根本的な力の中で電磁力と核力を統一して説明する量子力学の中から生まれた理論です。素粒子の基本相互作用はすべてゲージ理論で説明されると考えられています。
アインシュタイン氏は「神はサイコロ遊びをしない」という有名な言葉で示されるように、量子力学には興味を示しませんでした。
私たちが向き合っている市場はランダムネスとは縁が深く、私はマルコフチェイン・モンテカルロ(以下MCMC)と呼ばれる手法を用いたサイコロ遊びもどきのツールを頻繁に利用します。
モンテカルロはあのカジノのモンテカルロを指しているのですが、このMCMCという手法がコンピュータサイエンスと結びつくと、難解な数式の積分を解かずに確率の計算ができてしまうのです。このMCMCはスーパーコンピュータを使ったQEDのシミュレーションでも活躍しています。
アインシュタイン氏の時代にはコンピュータはなかったので、彼がPCを利用していればどうだったでしょうか。
ゲージ理論は、量子力学から派生しています。
クオンツの世界で有名なシモンズ氏は、彼の旗艦ファンド、メダリオンの由来でもある、位相幾何の分野の研究で数学の権威ある賞のメダルを授かっており、その研究成果は量子力学に多大な貢献をしています。
ゲージ理論とCPIの論文を著したワインシュタイン氏は、シモンズ氏のチームとは別の会社のダイレクターです。
ゲージ変換
ゲージ変換という概念を整理しておきます。
ゲージというのは長さの量を測る物差しのことです。
ゲージ変換というのは、この物差しの尺度を計測する対象により変化させるというものです。
物差しを変えたら、同じ測度で測れないじゃん。
ところが私たちの社会には、そうした事例が結構あります。
ハンバーガーの価格はどれぐらいでしょう。
ハンバーガーの値段
日本では一つのチェイン店のハンバーガーの値段は、一律同じ料金体系になっています。
チーズバーガーが300円くらいですか。
仮にチーズバーガー一つ300円としておきます。
この価格は東京で食べても、札幌で食べても共通で、同じ料金を支払えば購入することができます。
では、同じチェイン店のチーズバーガーをスイスのチューリッヒで購入すると、対価をいくら支払えば良いでしょう?
果たして同じ価格で購入できるでしょうか。
日本円をスイスの現地通貨であるスイスフランに両替してチューリッヒで観光します。
あなたは、見慣れたハンバーガーチェインに立ち寄ることにしました。
チーズバーガーの値段を見てもピンときません。
その時の為替レートで日本円に変換してみます。
なんとびっくり1000円を超えています。
スイスは物価が高いね。
このハンバーガーの実質的な価値は、軽いランチ一食分です。
片方の場所では300円だったのに、ここでは1000円になっています。
見慣れた同じ味のハンバーガー、同じ対象物なのに長さが変わってます。
マクドナルド指数というものがあります。
世界各国にチェイン店があるマクドナルドの商品の現地での価格を比較したものです。
為替レートによって、現地の通貨を自国通貨に変換して一覧表にしています。
国によって随分価格が違いますね。
ハンバーガーは、国によって販売価格のマージンに差はありません。
現地の標準的な原材料を調達して調理します。
本国から輸出するケースもあるかもしれません。
製造コストの差でしょうか?
物価水準を加味しないと正しく評価できないのでは?
それとも、変換した為替レートは価値の交換レートとして、正しいものなのでしょうか。
時間経過によってもこの変換レートは変わります。
何やら、裁定機会が発生しそうなシチュエーションです。
ゲージ理論で把握すると、このチーズバーガー300円も1000円もどちらも正しい長さなのです。
ゲージ変換の概念が朧げながら見えてきました。
賃金
別の例を見てみましょう。
仮に2年前のあなたの給与所得の金額が150000円であったとします。
今年、雇用主は給与支給額を10000円増加して支給しました。
ここのところ昨年から電気代やガソリン代といったエネルギー関連の価格が上昇しました。
それに加え小麦の価格を中心に粉物やら卵やら食料品に価格が上昇して家計に影響しています。
あなたは、自分の実質的な所得が増えていないことを嘆きます。
所得増えてないし。
雇用主は言います。
給与上げたよ。
さて、雇用主とあなたの言い分どちらが正しいでしょう?
ゲージ理論からみると、どちらも正しいのです。
両者は異なる物差しで測っています。
雇用主 所得 =d/dt
あなた 所得 =d/dt - r インフレーション
ゲージ変換は以下の確率因子Λ(t) によって表されます。
X(t) -> Λ(t) X(t)
Λ : 確率因子
例)USD/JPY 為替レート等
上の給与所得の例ではインフレーションが関係していますが、Λ(t)をUSD/JPY為替レートとみなしたものもゲージ変換の一つです。
投資ポートフォリオの構成
もう一つ興味深い例を挙げてみましょう。
投資ポートフォリオの構成についてです。
Xu(t)を金融商品の価格とします。 u: 1,2,....n 株式、債券、金、.... Φ u(t) は金融商品 u を保持する期間です。 Φ でアロケーションしたポートフォリオの価値が Vとします。 V = Σ Xu(t) Φ u(t) u
別世界の専門用語が出てきますが我慢してください。
以下のような図を見かけたことがありますか?
全ての取りうるポートフォリオのファイバーからなる、
基底空間 M(t,X,Φ,)、X=(X1,X2,X3,…Xn)Φ=(Φ1,Φ2,…Φn)
のファイバーバンドルを定義します。
*
* |
| |
/ |/ / |/
+--+--+--+--
/ / / /
+--+--+--+--
lattice guage theory
z方向に伸びた直線がファイバーです。
この図のファイバー*は、金融商品のアロケーションをコントロールするポートフォリオマネージャーのクオリティを計測します。
異なる配置でのファイバーの大きさはゲージ変換されます。
このゲージ理論で捉えたモデルでは、ファイナンスの分野で裁定機会があるのは自然な状態なのです。
またの機会にゲージ理論と確率投資モデルについて解説してみることにします。